人生ゲーム

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「君たちはどう生きるか」を久しぶりに読んだ感想 〜僕たちはなぜ生きるか?〜

君たちはどう生きるか、というタイトルを久しぶりに書店で見つけたので、手に取ってみました。

 

【文庫 】君たちはどう生きるか (岩波文庫)

【文庫 】君たちはどう生きるか (岩波文庫)

 

 

これは15歳のコペル君の日常について、叔父さんがノートで感想を書いてお互い交流していく物語です。

 

叔父さんのコメントを通じて、僕たち読者は、世の中がどのように動いていっているのか、貧乏であるとはどういうことか、英雄について、などなど様々なことをコペル君と共に考えていく話です。

 

 

1. はじめに

2. 僕たちのモヤモヤは多分この本では解決しない

3. 僕たちはなぜ生きるか

 

1. はじめに

さて、本の感想を語る前に、この本が執筆された時代について少し思いを馳せてみたいと思います。

 

君たちはどう生きるか」が書かれたのは1937年。日露戦争はすでに昔のこととなり、日本軍が満州事変によりアジア大陸に攻め入ってから4年の月日が経った時です。

 

ヨーロッパでは、ヒトラームッソリーニが政権をとり第二次世界大戦の舞台が整いつつある時期に、この本は出版されました。

 

この本が、名作であることは疑いようのない事実です。

1世紀弱の時が証明してくれていますが、その背景にあるものを考えないとただの遺物でしかありません。

 

軍国主義が強まり、芸術や文学といった創作活動が制限されていた生きづらい時代です。

つまり、現代の僕たちには

想像すらつかない時代です!!

 

当時に比べれば、今は自由で豊かな文化がある時代です。

貧富の差もほとんどなく、ごく僅かな例外を除けば、ほぼ全員が高校に行き、ほとんどの人間が大学にもいける時代です。

 

そういう意味では、この本の訴えは現代人からすると凡そ当たり前であり、一種チープなものである感じすらします。

 

小学生、中学生に読ませるには良いものだと思いますが、僕たちがそのまま読むには少し理想論がすぎるだろうな、というのが正直な感想です。

 

 

2.僕たちのモヤモヤは多分この本では解決しない

 

コペル君は最後に、人間が皆おたがいに良い友達であるような世の中がくるといい、というようなことを言っています。

 

お互いに親切にして、偉ぶらずに生きていくなどこの本で語られていることは非常に真っ当です。

 

その流れに乗せられて

 

「ああ、そうだな。人類皆友達だよな」

 

なんて、ヌルいことを考えているような人は、3日くらいしたらその感情を失い、

 

「まじ、ろくなやついねえ」

 

と満員電車で、職場で、愚痴を垂れ流すロクでもない奴にジョブチェンジすること確実です。

 

改めて言いますが、この本はある意味、特殊な時代に書かれています。

軍国化に伴い、権力志向を諌めるような意見は排除され、軍人が偉ぶるような世の中だったのでしょう。

 

その時代に書かれた綺麗事は、この比較的綺麗な世界で生きている僕たちの身に沁みることはあまりないでしょう。

 

その時代は想像することしか出来ませんが、今いる時代より生きやすいことはないと思います。

 

生きづらさを感じていた少年少女が、文化への愛や美しい価値観を保つために書かれた本といっても過言ではないでしょう。

 

軍国主義がはびこる息苦しい日本では、心だけでも高潔であろうとすることが難しかったことは想像しやすいと思います。

 

翻って、現代の僕たちはどうでしょうか?

 

現代はとても生きやすい時代だと思います。

忙しい忙しいと多くの人は言いますが、仕事をやめても生活保護は出ます。病気をすれば病院にかかることが出来ます。

 

君たちはどう生きるか」で出てくるほどの労働環境はほとんどないのではないかと思います。

 

好きなことを述べるだけの自由があり、技術革新も素晴らしくスマートフォン一台あればほとんどのことが出来ます。

 

そんな時代ですが、コペル君が言うところの「すべての人がおたがいによい友だちであるような、そう言う世の中」はまだ来ていません。

 

SNSで僕たちの距離は縮まり、人間的なものになってきましたが、確かな断絶もあるような気がします。

 

しかし、1930年代、軍国主義が強まっていた日本より生きやすいことは確かなようです。

 

ですが、僕たちはまた別の種類の閉塞感を覚えているのではないでしょうか?

 

ここから先はまた明日書きたいと思います。